テンポ設定とボカロ調教テクニック はじめに

音楽理論編T「拍子とテンポ編」では音符の長さとテンポの関係性について書きました。
「60bpm時の8分音符の長さは120bpm時の4分音符の長さと同じ(=テンポが2倍になると音符の長さは半分になる)」という法則です。
ここではこの法則を利用したボカロ調教テクニックについてお話したいと思います。
具体的にどのような場面で使用するかですが、テンポが遅い曲の調教時や、早口で歌わせる時に滑舌をはっきりさせるための細かい調教をしたい、という時に使えるテクニックです。

エディタのテンポ設定をどうするか

例えば上に挙げた「60bpm」というテンポですが、このテンポは音楽的に「遅いテンポ」に分類されます。
このように遅いテンポの曲の場合、バカ正直にボカロエディタのテンポを60bpmに設定してしまうと音と音の間隔が詰まってコンマ○秒単位の細かい調整がしづらかったりする場合があります。
細かい調整がしたいのに音の間隔が狭くて調整しづらいな…という時、

@テンポを倍にする(この場合、60bpmの2倍のテンポ=120bpmに設定する)
A音符の長さを2倍に引きのばす


こんな手順を踏むというテクニックがあります。

テンポと音符の長さの法則

では何故このようなことが可能なのか、説明しましょう。
上の説明にもあるように、

「60bpm時の8分音符の長さは120bpm時の4分音符の長さと同じ」

という法則があります。
裏を返せば、「120bpm時の8分音符を2倍に引きのばすと60bpm時の4分音符と同じ長さになる」とも言えるのです。
8分音符⇔4分音符間だけではなく、他の音符間でも同じことが言えます。その互換法則性を表にまとめてみましょう。
表のブルーゾーンとピンクゾーンの音符の時間的長さはイコールです。「α」にはbpm値が入ります。

「α」bpm時の音符 「2α」bpm(αの倍速)時の音符
2分音符 2分音符 全音符 全音符
4分音符 4分音符 2分音符 2分音符
8分音符 8分音符 4分音符 4分音符
16分音符 16分音符 8分音符 8分音符
32分音符 32分音符 16分音符 16分音符
64分音符 64分音符 32分音符 32分音符

(以下略)

ちなみに「α」bpmの3倍の速さの時は、「2α」bpmの音符に符点をつけると同じ長さになります。
これは、譜面上の表記が変わっても人の耳に入る時は同じ長さで聞こえるということを意味します。
普通は曲を聞く時に譜面やボカロエディタのロール画面なんて見ませんから、ボカロエディタで2倍のテンポに設定しようが、人の耳に入った時に同じ長さになれば違和感なく曲は再生されるわけです。
これは、音楽は目に見えないという性質を利用したテクニックです。見えないのをいいことにヤりたい放題です。
しかし恐ろしい事に、最終的にオケの尺に合った長さでボカロが歌っていればそれで楽曲は完成してしまうのです。音楽は耳に入った結果が一番重要なのです。

…と、一通り説明をしましたが、言葉だけだとちょっとわかりにくいので、具体的な実践テクニックを絡めてもうちょっと掘り下げてみましょう。

実践テクニック

例えば、以下のような曲があります。

試聴プレーヤー

(わかりやすいように後ろでクリック音を鳴らしています。)
この曲は私が作曲しました。
作曲者である私の意図として、この曲の速さは「60bpm」と設定しています。後ろのクリック音のテンポが60bpmの速さです。
この曲を譜面に起こすと下の図(*譜面1)のようになります。(画像クリックで別窓拡大表示)

(*譜面1)
初音ミクですよ譜面

これをボカロエディタで打ち込むと、ボカロエディタ上でのピアノロール画面(*ロール画面1)はこんな感じになります。(画像クリックで別窓拡大表示)

(*ロール画面1)
60bpm時のピアノロール画面

何だか音と音の間隔が詰まっていて細かい編集はしづらそうですね。
なので、ボカロ編集時にはテンポを倍にして編集してみましょう。

手順@  2倍のテンポに設定する
…この曲のテンポは60bpmなので、2倍のテンポは120bpmになります。

手順A  音符の長さを2倍に引きのばす
…テンポを2倍にすると音符の長さも全て2倍にしなければ帳尻が合わなくなります。
なので、(*譜面1)の音符を上の表のピンクゾーン『「2α」bpm(αの倍速)時の音符』に置き換えていきます。
一つ一つ置き換えてゆくと、譜面がこのように変わります。(画像クリックで別窓拡大表示)

(*譜面2)
初音ミクですよ譜面120bpm

これをボカロエディタで打ち込むと、ボカロエディタ上でのピアノロール画面はこんな感じになります。(画像クリックで別窓拡大表示)

(*ロール画面2)
120bpm時のピアノロール画面

赤○の部分に注目してください。このテンポの数値を120に設定するのを忘れるとエクスポートした時に帳尻が合わなくなりますのでご注意を。
(*ロール画面1)と比較して、音と音の間隔が広くなっているのがわかります。
これなら、細かい編集もしやすそうですね。
これをwavに書き出すと、

試聴プレーヤー

こうなります。
60bpmのクリック音とずれることなく、普通に一番上のプレーヤーと同じように聞こえますね。

DAW上で調教データの長さを比較してみましょう。
一番上の波形は60bpmのクリック音の波形、真ん中が60bpmで調教したミクの波形、一番下が120bpmで調教したミクの波形です。(画像クリックで別窓拡大表示)

DAW比較画像

長さが一致しています。これで、帳尻が合うことがおわかりいただけたと思います。
ちなみに今回の曲で使ったVSQデータは、以下よりダウンロードできます。(zipで圧縮してありますので解凍してご覧下さい)
V2(vsq)フォルダに入っているものがVOCALOID2用のファイル、V3(vsqx)フォルダに入っているものがVOCALOID3用のファイルです。

☆vsq/vsqxのダウンロード

時間があれば、是非wavで書き出して実験してみて下さい。
このように、テンポと音符の長さの法則を利用したこんなボカロ調教テクニックがあります、というお話でした。

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